俺はA社に勤めているんだが、1年くらい前から、同僚や上司が俺のことを監視してくるんだよ!みんな、『奴ら』の仲間になっちまったんだ。
『奴ら』って何かって?奴らは、俺を陥れようとしている連中のことで……。あっ、ほら、今もそこを通った女性が俺のことをジッと見てただろ?彼女も『奴ら』の仲間なんだよ!
俺はどこに行っても『奴ら』から逃れられない。だから、俺はA社内の唯一信頼できるY部長に、「『奴ら』が俺を監視できないようにしてくれ!」って頼んだのに……。Y部長は「気のせいだ」「誰も君を監視していない」と言って、何も対策をしてくれなかったんだ。俺は怖くて怖くて有給を使って休んで、その後も出社できなくて……。そうしたら、Y部長から、「就業規則の懲戒事由に当たるから解雇する!」って言われたんだ。
Y部長もA社も俺を見捨てやがった!あんまりじゃないか!俺はA社を辞めたくない!何とかなんないのかよ?
相談者はかなり精神的に追い詰められていますね。
A社(Y部長)は相談者を説得したし、それでも出勤しないから解雇したんでしょう。でも、そうすると、相談者は完全に孤立してしまってヤバそうです。
実は、相談者と同様のケースについて、会社側の懲戒解雇の効力について争われた事件があります。これについて最高裁が下した判決を見てみましょう。
解雇権濫用の法理は労働契約法の条文になった!
本来、雇用契約は使用者と被用者との間に結ばれる個人的な契約です。そのため、被用者が退職する自由があるのと同時に、使用者が被用者を解雇する自由もあって然るべきです。
しかし、日本では長年、年功序列制度を柱とした終身雇用制度だったこともあり、転職が一般的ではなく、被用者にとって解雇は人生の重大事でもありました。そんなわけで、判例は自由な解雇を認めず、合理的で論理的な理由が存在しなければ解雇できないとしてきました。これが解雇権濫用の法理です。
もともと判例の積み重ねから生まれた解雇制限ですが、平成15年の労働基準法改正時に条文化されました。さらにその後、条文は、次の労働契約法16条に移されて現在に至ります。
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
で、ここでいう「客観的に合理的な理由」「社会通念上相当」に何が含まれるのかが問題となるわけですね。特に、相談者のような、かなり追い詰められた状態の社員に対して、会社はどう接するべきなのでしょうか?
会社は精神病の社員に対して適切な対応を採るべし
平成24年4月27日に最高裁が出した判決は、被害妄想の精神病にかかった社員の解雇を無効とした原審の判決を支持しました。
この事件の概要は、相談者のケースとそっくりです。X(被上告人)は、加害者集団からの依頼を受けた専門業者や協力者による盗撮や盗聴が行われているという思いに囚われちゃったんです。そして、職場でも自分は監視されたり、嫌がらせを受けてたりしているとして、会社Y(上告人)に「何とかしてくれ!」と頼みます。
が、YはXを納得させる行動をとらず、「いいから、出社しろよ!」と迫りました。Xは「自分の身は自分で守る」ってことで、有給休暇を全て取得した後、約40日間の欠勤を続けました。
その結果、Yは、就業規則の懲戒事由を根拠に、Xを諭旨(ゆし)退職の懲戒処分にしました。一般的に、諭旨退職とは、懲戒解雇の対象となる社員に対して、「自分から辞表を出せば、自己都合退職にしてやるぞ!」と迫る実質的な懲戒解雇をいいます。
精神不安定な状態で会社に見捨てられたら困るXは、「解雇はねーだろ!!」とYを訴えました。
これに対して、最高裁は次のように述べています。(全文はこちら)
このような精神的な不調のために欠勤を続けていると認められる労働者に対しては、精神的な不調が解消されない限り引き続き出勤しないことが予想されるところであるから、使用者である上告人としては、その欠勤の原因や経緯が上記のとおりである以上、精神科医による健康診断を実施するなどした上で(記録によれば、上告人の就業規則には、必要と認めるときに従業員に対し臨時に健康診断を行うことができる旨の定めがあることがうかがわれる。)、その診断結果等に応じて、必要な場合は治療を勧めた上で休職等の処分を検討し、その後の経過を見るなどの対応を採るべきであり、このような対応を採ることなく、被上告人の出勤しない理由が存在しない事実に基づくものであることから直ちにその欠勤を正当な理由なく無断でされたものとして諭旨退職の懲戒処分の措置を執ることは、精神的な不調を抱える労働者に対する使用者の対応としては適切なものとはいい難い。
最高裁の言い分は、「正社員として雇った以上は、その社員が精神の不調を来しても、きちんと面倒を見ろよ」ということなのでしょう。これが良いのか悪いのかは別として、最高裁の立場は社員寄りだとわかりますね。
集団ストーカーの“被害者”を救えるのは会社?
相談者や判例の被上告人が訴える“監視”や”嫌がらせ”は、典型的な「集団ストーカー」です。
集団ストーカーの“被害者”は、不特定多数の人々によって監視や付きまといを受けている、と主張します。
中には、実際に犯罪者やカルト宗教に嫌がらせを受けている人もいます。しかし、統合失調症などを患った人が被害妄想を膨らませているだけのケースがほとんどです。
精神を病んでしまうと、正常なときは全く気にならないことでも、妙に気になってしまうものです。たとえば、マンションの出入り口前に犬の糞が落ちているだけでも「敵による攻撃だ!」と思ってしまうんですね。そうなると、怖くて怖くて外も歩けないでしょう。
本当にストーカー被害に遭っているなら、当てにならないと思いますが、警察に相談しましょう。
一方、精神病が原因で“ストーカー被害”に悩んでいる場合、精神の安定を取り戻すことが先決です。しかし、精神病の人は自分が精神病だとは認めないでしょ?となれば、そういう人を救えるのは会社なのかもしれませんね(もちろん、そういう人が会社勤めしていれば、ですが)。
最近、「会社は利益を追求するだけでなく、社会的責任を果たすべきだ」という考えが浸透しつつある。こうした理念の下で実施される会社の活動は「CSR活動」と呼ばれてるよ。環境保護のための清掃活動や植林ボランティア、文化支援としての伝統行事への寄付や美術館の運営などがその例だね。
会社は、CSR活動のような外向きの活動だけでなく、苦しんでいる自社社員に手を差し伸べるといったことにも力を入れてほしいと思う。働けなくなった人たち全員を国が養うことになったら大変だ。社会保障費ばかり膨れ上がるからね。会社は、精神を病んだ社員をクビにするんじゃなくて、そういう社員のセーフティーネットになるべきなんじゃないかな?
精神病を改善したければ環境を変えるのが一番!
相談者のように悩んでいる人は、今回紹介した判例を見せながら、もう一度会社と話し合ってみるといいんじゃないでしょうか?
ただ、一度トラブった会社にこれからもずっと勤務し続けるのはつらいと思いますよ。
そもそも精神病の原因は会社にあるのかもしれません。仕事や会社の人間関係に苦痛を感じて精神的に追い詰められ、それがきっかけで集団ストーカーの妄想に囚われた可能性があるからです。だったら、今の会社にしがみつくのはやめた方がいいですね。
精神病を発症した場合、環境を変えるのが最善の策であることも多いです。具体的には転職するってことです。
もっと気持ちの余裕を持てる職場に移れば、集団ストーカーの“被害”は一気に消え去り、本来の能力を存分に発揮できるかもしれません。そして、苦しいときに支えてくれる本当の仲間と出会えるかもしれません。
会社から懲戒解雇を言い渡されたり、精神科にも通ったりしているので、そんな経歴があったらどこも雇ってくれないんじゃないかって?
いえいえ、心配は要りません。経歴に不安のある人をしっかりサポートしてくれる転職サイト「DYM就職」を利用すれば、相性ぴったりの優良企業がきっと見つかります!
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