ウナギの蒲焼のにおいが嫌!鰻屋の排気がご近所トラブルを引き起こす

ウナギの蒲焼のにおいが嫌!鰻屋の排気がご近所トラブルを引き起こす 近隣トラブル
相談者
相談者

私は賃貸マンションの2階に住んでいます。

数か月前、マンションの向かいに鰻屋さんが開店しました。その鰻屋さんから、ウナギの蒲焼の美味しそうなにおいが漂ってきます。あの香ばしくて、食欲をそそる、美味しそうなにおいですよ。私はウナギの蒲焼が好きですよ。

だからといって、毎日毎日そのにおいを嗅がされると、お腹いっぱいになるというか、飽きるというか……。で、においが気になるので窓を開けて換気もできないし、ベランダに洗濯物や布団を干すと匂いが染みつくし……。

そもそもウナギって絶滅危惧種ですよね?そんな貴重な生物を食用にするのを専門にするお店ってどうなんでしょうか?生物多様性の観点からもダメですよね?

ウナギがかわいそう!マンションの前の鰻屋、潰れろ!

何を相談したいのかがわかりにくいですが、要は「鰻屋からのにおいを何とかしてほしい」ってことなんでしょう。

鰻屋に限らず、飲食店などから漂ってくるにおいは、近隣住民にとって迷惑なもの。こうしたにおいに関連するトラブルはどう解決すべきでしょうか?

糞尿の臭いや肉の腐敗臭などは悪臭防止法で規制される

養豚所の糞尿の臭いや加工工場の肉の腐敗臭など、誰にとっても不快な悪臭は悪臭防止法で規制されます。

規制される悪臭は具体的に定められていて、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素などが該当します。規制地域は、都道府県知事によって指定された住宅地です。

悪臭防止法があるくらいですから、「近所にかまぼこ工場ができたら、魚の腐った臭いが漂ってくるようになった」なんて場合は、役場に相談すれば対応してくれるはず。こういうときのための行政ですよ。

さて、問題となるのは、悪臭防止法の規制に引っかからないにおいです。

相談者のケースのように、近所に飲食店があると、そこから食べ物のにおいが漏れてくることがあります。お食事時なら、そのにおいをオカズに白いご飯をいただくのも有りでしょう(笑)

でも、いくら美味しそうなにおいでも、長時間嗅がされたら、気分が悪くなっちゃいます。それに、においが室内に入って来たり、洗濯物などに染みついたりするのはかなり迷惑です。学校で「花子ちゃんのお洋服は、いつもウナギの蒲焼のにおいがする!」なんてことになったら、いじめに発展することも……。

ここで、悪臭防止法に引っかからないにおいについて、裁判所がどう判断しているのかを見てみましょう。

まあいっか
まあいっか

江戸の小話に「うなぎのかぎ賃」があるよ。ケチな男が鰻屋が出すウナギの蒲焼のにおいをオカズに毎日ご飯を食べていたら、その鰻屋がにおいのかぎ賃を請求しに来たっていう笑い話だ。

ぼっちだこ
ぼっちだこ

ケチな男は鰻屋の請求通りにお金を出すけれど、それをジャラジャラさせて、「音だけ聞いて帰んな!」と言うのがオチだったね。ケチな男の方が一枚上手だったわけだ。

まあいっか
まあいっか

昔は、鰻屋は宣伝効果を狙って、わざとにおいを外に出していたっていう話もある。そして、においを宣伝に使う提案をしたのは、発明王の平賀源内だったとか。

ぼっちだこ
ぼっちだこ

源内は土用の丑の日の火付け役としても有名だ。いずれもフィクションらしいけど、おもしろい話だと思う。

まあいっか
まあいっか

かつては人々を喜ばせた行為が、現在ではクレームの対象になってるってわけだね。今の鰻屋は、ウナギのにおいのかぎ賃を請求するどころか、逆に賠償金を請求される立場だから、厨房の排気には神経をとがらせている。物事の価値は時代によって激変するんだなと改めて実感するよ。

お菓子の甘~いにおいでも不法行為になることがある

悪臭以外のにおいに関するおもしろい下級審判例があります。

事件の発端は、被告Yが第二種住宅地域で平成17年2月に工場を操業スタートしたことにあります。Yは事務所兼倉庫という名目で工場を建てたっていうから悪質です。第二種住宅地域では、Yが建てたような工場は建築基準法によってNGとされているからです。にもかかわらず、Yは堂々と法律違反!

しかも、お菓子作りをする工場だったので、周辺にお菓子の甘~いにおいをまき散らし、機械の騒音もうるさいレベル……。

ブチ切れた近隣住民が「あの工場を何とかしてください」と市にお願いしますが、違法な工場はいつまでもそのまんま。平成20年6月に工場は移転しましたが、それまでずっと、近隣住民のつらい日々が続きました。

そんな近隣住民17人と近所の不動産会社が、Yを相手取って、不法行為に基づく損害賠償を求めました。また、違法状態を解消しなかったとして、市も被告として巻き込まれちゃいました。

この訴訟について、京都地方裁判所は平成22年9月15日、次のように判断して、Yに住民1人あたり16万5千円を支払うように命じました。(全文はこちら

本件工場が発する臭気は、菓子特有の甘いにおいであり、これを不快と感ずるかについては個人差が大きいものと考えられるから、一般人をして不快にさせるものとは直ちにいえない。このような趣旨において、上記騒音や悪臭による被害に関する原告γの供述を全て採用することはできない。
しかし、音やにおいによる不快感は、短時間であればともかく、長期間にわたり、日中、継続的なものである場合には、かなりの苦痛となるものと認めるのが相当である。加えて、上記(2)記載のように、本件における侵害行為は態様が悪質であり、原告らが長期間にわたり被害を訴え続けていたこと等に照らすと、本件工場の発した騒音及び臭気は、原告らの受忍限度を超えていたというべきである。

またまた登場した受忍限度論

受忍限度論は、以下の記事で紹介しました。

判例の役割をわかりやすく解説!最高裁判所の法解釈が実務を動かす
裁判や行政、企業の法務などを拘束する判例は、トラブルを法的に解決したいときにとても役立ちます。そんな判例について、わかりやすく解説します。

受忍限度論は、ぶつかり合う利害を調整するための便利ツールなんですね。公共施設vs近隣住民のケース以外でも、ご近所トラブルの裁判でもよく使われます。

今回の裁判では、Yが建築基準法に違反していたこともあって、住民寄りの判断になっています。「お菓子の甘~いにおいが不快だとは限らないけどね」と前置きした上で、裁判所は住民の請求を認めました。

とはいえ、住民1人あたりが求めていた賠償金の額は110万円。裁判所よ、どれだけ減額してるんだよ?

さらに、原告の不動産会社の請求と市の責任は認められませんでした。

裁判所がこんな判断を下すんじゃ、違法だろうが何だろうが、「やっちゃったもん勝ち」になりますよね?大企業なら、賠償金を払うことを覚悟の上で、それを上回る利益を上げる戦略に出るかもしれません。これは、日本の不法行為法の欠陥なのか、それとも裁判官の頭がアレなのか……

ただ一ついえるのは、悪臭といえないにおいでも、時として不法行為になるってことです。

臭気対策を実施することが飲食店に求められている

相談者のケースは、今回紹介した判例と似ていますね。

最近では、厨房の排気ダクトに消臭フィルターを設置するなど、臭気対策を実施することが飲食店に求められます。環境省が「飲食業の方のための 『臭気対策マニュアル』」を出していますよ。

そんな時代ですから、臭気対策が不十分な鰻屋に対して、相談者は「においがきついんだけど、何とかしろ!」と言えるはずです。「店に直接言うのはちょっと……」という場合は役所に相談してみましょう。

それでも解決しなければ、今回紹介した判例を見せながら、「訴訟も検討します」と鰻屋に迫ってみてはどうでしょうか?

とはいえ、何をしてもトラブルが解決しないこともあるでしょう。そういう場合は、いっそのこと、自分が引越しすることも考えるといいですよ。「キャッシュバック賃貸」を利用して引っ越せば、最大10万円の引っ越し祝い金までもらえるのでとってもお得!

自ら発するにおいに気を配らないと訴えられるかも

においというのは、生活の質を作用する重要なファクターです。

一昔前のようにあちこちに肥溜めがあって、国民全員がにおいに鈍感だった時代ならまだしも、現代は清潔な時代です。問題となるのは、ウナギの蒲焼や焼き肉などの食べ物のにおいだけではありません。

タバコのにおいや香水のにおい、芳香剤のにおいなど、私たちも自ら発するにおいに気を配らないと、思わぬ相手から訴えられるかもしれませんよ。

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