僕は、今を時めく人気歌手、夢野九の大ファンです。
そんな僕のブログで夢野九の新曲「チャカポコマーチ」の歌詞について解説したいんですが、記事の中で歌詞を引用しても大丈夫なんですか?JASRACから「著作権使用料を支払え!」と言われそうで怖いんですが……
ブログやサイトを運営している人にとって、何が引用で、何が著作権侵害に当たるのか、は気になるところ。特に音楽に関して、悪名高いJASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)が脅威です。
そんな引用について、実際のところはどうなっているんでしょうか?
著作権法で保護された歌詞を引用するときの注意点とは?
歌詞は、楽曲とセットになっている場合だけじゃなく、歌詞の言葉それ自体も著作権で保護されています(著作権法10条)。なので、歌詞をブログやサイトに載せたい場合は、著作権者(歌手や作詞者など)に許可を得るのが原則です。
ただし、著作権法32条1項は次のように定めて、引用の場合は例外的に著作権者の許可を不要としています。
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
この条文にはあいまいな表現がてんこ盛りです。
まず、「引用」がどーゆうものなのかが分からない。「その他」に何が含まれるのよ?さらに、「公正な慣行」とか「正当な範囲内」とか、まったく意味不明ですぅ~
そんな条文の表現について具体的に解釈しているのが、最高裁の昭和55年3月28日判決です。(全文はこちら)
ここにいう引用とは、紹介、参照、論評その他の目的で自己の著作物中に他人の著作物の原則として一部を採録することをいうと解するのが相当であるから、右引用にあたるというためには、引用を含む著作物の表現形式上、引用して利用する側の著作物と、引用されて利用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができ、かつ、右両著作物の間に前者が主、後者が従の関係があると認められる場合でなければならない(以下略)
これは、有名なパロディ事件の判決です。デザイナー、マッド・アマノさんが写真家、白川義員さんの作品を勝手にフォトモンタージュにしちゃったので、白川さんが激怒。裁判にまで発展した事件です。
この最高裁判例では、引用をきちんと定義した上で、「自分の著作物を引用部分をはっきり区別しなさい」「自分の著作物をメインにしなさい」という2要件を示しました。で、この2要件は、その後の裁判でも参考にされてきたんですね。
しかし、この最高裁判例は改正前の昔の著作権法に関する判例です。「現在の著作権侵害事件に当てはめるのはちょっと……」ってわけで、これとは違った判断をする判例も出てきています。そんな最近の判例などもふまえて、早稲田大学法学学術院の上野達弘教授は「7要件説」を提示しています。
- 公表された著作物である。
- 引用先と引用元をはっきり分ける。
- 引用先の文章がメインではない。
- 引用に必要性がある。
- 引用が必要最小限度である。
- 引用先の文章を改変していない。
- 出所を明示する。
パロディ事件の最高裁判例もふまえて、さらに具体的に要件が整理されていますね。この7要件説に注意すれば、「引用だから大丈夫」と判断される可能性が高いってことでしょう。
JASRACと揉めたくなければ歌詞を引用しない方がいい
7要件説に従うと、歌詞全部をコピペして最後に「感動しました!」などと一言添えるだけの記事は完全にアウト!
逆に、「夢野九の新曲『チャカポコマーチ』の歌詞には『それが頭がクルクル坊主じゃ』とあるが、これは…という意味で~と考えられる。」みたいな感じの記事なら問題なさそうです。
とはいえ、恐るべきはJASRAC!
京都大学が平成29年度学部入学式の式辞を同大学のWebサイトに掲載したところ、式辞の中のボブ・ディランさんの歌詞について、JASRACが著作権使用料に関する電話をしたという事件がありました。これがネット上で大炎上!
JASRACは「歌詞の利用状況を確認しただけで、著作権使用料を請求したわけではない」と火消しに躍起でしたが、京大は「著作権使用料を請求された」と主張。両者の認識のズレ(?)が問題となって、もともと評判が悪いJASRACはネット上でボコボコに……。
まあ、この事件から、JASRACはお金の臭いを嗅ぎつけてどこからか湧いてくるってことがわかりますね(笑)
「JASRACとは絶対に関わりたくない!」って人は、やっぱりブログやサイトに歌詞を引用しない方がいいでしょう。JASRACは、公式HPで「ブログへの歌詞掲載について」というページを設けてブロガーを牽制しているくらいですから、かなり強気の姿勢です。
ただし、アメブロやライブドアブログなどの無料ブログはJASRACと包括契約を結んでいるので、JASRAC管理楽曲の歌詞を記事に掲載できます。これらの無料ブログを利用しているブロガーは、JASRACの脅威に怯える必要はありません。(どの無料ブログが包括契約を結んでいるかは各自で調べてくださいね)
JASRACは2018年4月1日から、音楽教室から著作権を徴収し始めたよね。
この件に関して2017年には、一般財団法人ヤマハ音楽振興会などの音楽教室が「音楽教育を守る会」を立ち上げて、JASRACに徴収権がないことを確認するための訴訟を起こした。
一方、JASRACは、宮田亮平文化庁長官から徴収を認める裁定をもらったもんだから、判決が出る前に徴収をスタートしたってわけだ。
音楽教室は楽曲を利用して収益を上げている以上、そこで行われることを学校の音楽の授業などと一緒に「音楽教育」と括ってしまうのは無理があるという意見も見られる。林芳正文部科学相もそんなことを言ってるよね。
今回の件に関しては、JASRACに批判的な意見が多いけど、その批判の根底にあるのは、JASRACに対する人々の不信感なんじゃないかな?
JASRACが徴収した著作権使用料がアーティストに適切に還元されてないって話があって、それが不信感をさらに強めている。
ロックバンド「爆風スランプ」のドラマー、ファンキー末吉さんが、この点について調査と業務改善命令を出すよう求める上申書を文化庁に提出したくらいだ。
こうした問題を改善しない限り、たとえJASRACの主張が法的に正しいとしても、JASRACに対する反発は無くならないと思うよ。
それでもJASRAC管理楽曲の歌詞をブログで引用しますか?
相談者の場合、7要件説に従っていれば、ブログ記事で「チャカポコマーチ」の歌詞を引用しても問題ないと思います。
ただ、「チャカポコマーチ」がJASRAC管理楽曲かどうかは確認しておくべきです。JASRAC管理楽曲の場合、それでも引用するかどうかは自己責任で!
特に、相談者がアフィリエイトなどの広告収入を目的にブログ運営しているなら、目をつけられやすいでしょうから、「危ない橋を渡らない」の精神で歌詞の引用を控えた方が安全なんじゃないでしょうか?