私は現在、3年前に結婚した夫と一緒に、マンションの一室を借りて住んでいます。子どもはいません。
昨年まで夫はIT企業に勤めていました。大手案件のプロジェクトリーダーを任された後はとても忙しく、始発出勤で終電帰宅は当たり前。休日出勤や泊まり込みも多い日々でした。私たちは夫婦なのに、1年くらいほとんど顔を合わせていませんでしたね。
そんな夫が、昨年の9月ごろからパソコンゲームに没頭するようになったんです。夫はもともとゲーム好きなんですが、それにしてもゲームへの執着が異常すぎ!会社から帰ってくるなり自室にこもってゲームをして、私が作った食事も食べてくれませんでした。しかも、夜中の3時、4時くらいまでゲームを続けて、数時間寝てシャワーを浴びただけで出勤することが何度もありました。夫は寝不足で体力的にもきつかったはずです。後から知った話ですが、この時期、夫はプロジェクトリーダーから外されて、雑用係をさせられていたそうです。
そして、10月中ごろから、とうとう夫の無断欠勤が始まりました。会社に行かなくなった夫は、朝から晩までズーッと自室にこもってゲーム!1か月ほど無断欠勤が続いて、ついに解雇されました。解雇の手続きや何やらは、全部私が代わりにやりましたよ。
解雇の日から半年間、私は自分の貯金を切り崩し、パートで働いて、夫を社会復帰させようといろいろ働きかけました。でも、夫は、夜中にコンビニに行くとき以外、部屋から出てきません。
こんな夫とこれ以上一緒に暮らすのはもう無理!離婚したいんです!
相談者の旦那さんは、どうやらゲーム依存症のようですね。
夫婦の生活も既に破綻しているみたいですが、相談者は果たして離婚できるんでしょうか?
世界保健機構(WHO)が精神疾病として認定した「ゲーム障害」
2018年6月、世界保健機構(WHO)が新たな国際疾病分類(ICD-11)を発表。この中で、いわゆるゲーム依存症を「Gaming disorder(ゲーム障害)」という精神疾患として認定しました。
ゲーム障害の症状としては、次の3点が挙げられています。
- ゲームをする時間や場所などをコントロールできない。
- 日常生活よりも、ゲームを優先してしまう。
- 悪影響があっても、ゲームをやめられない。
この3つだけだと「あっ、俺もゲーム障害!」って思う人もいそうですね(笑)
でも、ゲーム障害と診断されるのは、日常生活に支障を来している場合だけです。
ゲーム障害に限らず、何らかの症状があっても、本人も周囲の人も誰も困っていないなら、それは障害じゃないってことですよ。
たとえば、女性の足にしか興味のない“足フェチ”の男性は「パラフィリア」に分類されます。
この男性が自らの足フェチについて悩んでいて、「フツーの恋愛をしたい!」と望んでいるなら、この男性はパラフィリア障害です。
一方、この男性が足フェチに理解のある女性と出会って、毎日理想の足を堪能して幸せいっぱいならば、障害でも何でもありません。単なる“趣味嗜好”です。
こういう視点で考えると、相談者の旦那さんはゲーム障害と診断されるでしょう。
WHOが「ゲーム障害」を精神疾患として認定したことを受けて、2018年8月に厚生労働省も日本国内の実態調査に乗り出すことになったんだって。
その厚生労働省のHPにある通り、依存症は孤独や問題否認がきっかけで発症したり悪化したりするよ。“満たされない心”を満たすために始めた行為が繰り返されると、脳がより強い刺激を求めて暴走し、「もうやめよう」という気持ちだけでは衝動を抑えられなくなるんだ。
強度の精神病が離婚原因なのに精神病者との離婚は難しい
相談者の旦那さんがゲーム障害で生活がグダグダになっている以上、相談者は簡単に離婚できそうです。
というのも、民法第770条1項4号には、「裁判上の離婚」となる原因として「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」が定められているからです。条文は以下の記事で確認してください。
しかし、民法で強度の精神病が離婚原因とされているにもかかわらず、そう簡単に離婚できないのが日本の裁判離婚なんですよ。
民法770条1項4号の「精神病」っていったい何?
民法770条1項4号の「精神病」には、幻覚や妄想などのせいで現実と非現実の区別がつかず、人格が変わったり、日常生活ができなくなったりした状態が当てはまります。具体的には、統合失調症や躁うつ病などです。
一方、アルコール依存症やノイローゼなどは、民法770条1項4号の「精神病」には入らないんです。
「じゃあ、ゲーム障害はどうなのよ?」ってことですが、民法770条1項4号の「精神病」に当てはまらなそう……
裁判所は一切の事情を考慮して離婚を認めない
裁判所は裁判所で、民法770条2項に基づいて、一切の事情を考慮してなかなか離婚を認めないので困っちゃいます!
「一切の事情」として最高裁が考えるのは、「離婚を認めたら、パートナーを失った精神病者は生活していけるかどうか?」です。離婚後に精神病者が困窮してしまうような場合には、裁判所は離婚を認めません。(詳細はこちら)
夫婦の協力扶助義務(民法752条)は、パートナーが病気になったときにこそ必要だってのはその通りなんですが……。これが本当に現代の一般的な価値観にマッチするんでしょうか?
もっとも、最高裁は判例をふまえつつも、昭和45年11月24日の判決で次のように述べて、民法770条1項4号を理由とする離婚も認めています。(全文はこちら)
これら諸般の事情は、前記判例にいう婚姻関係の廃絶を不相当として離婚の請求を許すべきでないとの離婚障害事由の不存在を意味し、右諸般の事情その他原審の認定した一切の事情を斟酌考慮しても、前示D(注:妻)の病状にかかわらず、被上告人(注:夫)とDの婚姻の継続を相当と認める場合にはあたらないものというべきである(後略)
裁判所が認定した「諸般の事情」には、次のことが含まれています。
- 妻は変人で人嫌いなため、夫の店を全く手伝わなかった。
- 妻は昭和32年12月に実家へ帰り、夫とは別居していた。
- 妻は入院していたが、実家には療養費を支払えるくらいの資産があった。
- 夫は生活に余裕がないのに、過去の妻の療養費を全額支払った。
- 夫は将来の妻の療養費も支払う意思があった。
- 夫が長女を養育していた。
これだけ夫が妻に尽くしたにもかかわらず、妻は離婚に応じないって……。背筋が寒くなるレベル!!
さすがにヤバすぎるので最高裁も渋々離婚を認めましたが、依然として民法770条1項4号を理由とした裁判離婚は難しいようですね。
夫と離婚するのではなく、夫と一緒に会社と戦う道もある
相談者のケースでは、旦那さんはゲーム障害ですが、意思能力は健在です。なので、協議離婚や調停離婚が成立する可能性があります。
日本の離婚は調停前置主義なので、いきなり裁判にはなりません。まずは相談者が旦那さんとしっかり話し合うことが大切です。
裁判離婚まで行ってしまった場合、相談者は、民法770条1項4号ではなく、同法1号5号を離婚原因にした方が戦いやすいかもしれません。
旦那さんが働かず家計が苦しいこと、同居はしていても夫婦として交流が無いことなどが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由」として認められる可能性があるからです。
ただ、余計なお世話かもしれませんが、相談者には、本当に離婚したいのかどうかをもう一度考えてほしいですね。
まだ少しでも「夫が好き」って気持ちがあるなら、旦那さんの回復の手助けをしてあげてはどうでしょうか?
そもそも旦那さんは、ブラック企業に酷使されたせいでゲーム障害を発症したんじゃないでしょうか?
日々の残業や不当な降格・配置転換など、会社が旦那さんにしたことは違法性が高いように思われます。
だったら、会社を夫婦の共通の敵として相談者が一緒に戦う姿勢を示せば、旦那さんがゲーム依存から抜け出せるかもしれません。相談者と旦那さんが協力して会社を訴えるのもいいでしょう。
もし過去のことを水に流す場合、旦那さんはもう一度就職して人生をやり直すこともできるはずです。経歴に不安のある人をしっかりサポートしてくれる転職サイト「DYM就職」を利用すれば、ゲーム障害で引きこもっていた旦那さんでもステキな会社と巡り合えますよ!