私の両親はA宗のY寺にある先祖代々の墓地を守ってきました。しかし、私はA宗の教義が肌に合わず、Y寺の住職も信頼できなかったので、B宗に改宗しました。
1週間前、母が亡くなったので、私はB宗のお坊さんに戒名をつけてもらった上で、Y寺の墓地に納骨しようとしました。そうしたら、Y寺の住職が「戒名をつけるのは私の役割だ。Y寺墓地使用規則にもそう書いてある。勝手に戒名をつけられた以上、納骨させるわけにはいかん!そもそもB宗に改宗した者はY寺の墓地を使用できんぞ。今すぐ墓石を撤去して土地を明け渡せ!」と激怒したんです。
住職の言うことに納得できません。Y寺の墓地の永代使用権について契約したのは私の先祖や両親で、私には関係ない話。私はY寺の住職に戒名をつけさせたくないし、墓石を撤去して土地を明け渡せなんて言われる筋合いもないと思うんですが……。
私はどうすればいいんでしょうか?
相談者のようなトラブルは近年しばしば耳にします。墓地の永代使用権について、最高裁はどのような判断をしたのでしょうか?
戒名に関するルールは墓地使用規則に定められている
戒名とは、仏門に入った者が与えられる名前です(浄土真宗では「法名」、日蓮宗では「法号」といいます)。現在では、仏門に入るわけじゃなくても、成仏を願って僧侶が死者に与える名前のことをいう場合がほとんどです。
この戒名は、通常は菩提寺(檀那寺)の住職がつけるのが一般的です。もちろん、戒名をつけてもらう際には、相応の金額を包んで「お布施」として菩提寺に収めるんですね。
菩提寺にとっては大切な収入源ですから、「戒名は別のところでつけてもらったんで結構です」な~んて言われると、菩提寺の住職はプチッと来ちゃうわけです。その後の流れは、「戒名をつけ直せ!(=うちの寺にお布施を収めろ!)」ってなりますよね。
で、墓地を使用したい人が住職の要求を拒むと、住職は「墓地を使わせない!」と強気で迫ってきます。ほとんどの寺院墓地で定められている墓地使用規則にはルール違反に対する罰則が定められているので、それが住職の言い分の根拠になります。
墓地使用規則には、戒名に関するルール以外にも、その寺独自の典礼についていろいろ書かれています。墓地を穏便に使用し続けたければ、墓地のある寺の墓地使用規則を葬儀前に確認しておくことをおススメします。
戒名にはランク(位号)があって、下から「信士・信女→居士・大姉→大居士・清大姉」となってるんだって。このランクに従って、戒名料は10万円から100万円以上まで幅広く設定されるんだ。
トラブルの原因になりやすいのが、戒名のランクを決める権限を持っているのが寺院側だってこと。
戒名は、故人の社会的地位や寺院への貢献度などを基準に、寺院によって一方的に決められるんだ。だから、強欲な寺は、お金持ちの故人に「何ちゃら大居士」という戒名をつけて、「戒名料は500万円です」と遺族に請求するなんてことも……。
そんなことをされてトラブルになる前に、菩提寺とはしっかり交渉しておくことが大切だね。
寺院は、異なる宗教的方式による墓石の設置を拒否できる
墓地を巡ってトラブルが発生し、墓地を使用したい人と墓地のある寺の住職とが対立した場合、墓地の永代使用権はどうなるんでしょうか?
特に、相談者のように、墓地使用規則に合意した者と墓地を使用したい者とが一致しない場合は面倒なことになっちゃいます。
この点について、最高裁は平成14年1月22日に判決を下しています。
Y(被上告人)は、D宗甲寺が運営する寺院墓地の永代使用権を取得する際、D宗の典礼の方式に従って墓石を設置することに合意しました。合意の中には、墓石に刻する題目を甲寺住職のX(上告人代表)が書写したものでなければならないというルールも定められていました。
その後、YはD宗から破門されたため、Xが書写した題目を墓石に刻することを拒否。石材店から示された「妙法蓮華経」の題目を墓石に刻した上、その墓石を甲寺の墓地に設置したいと言いました。これに対して、「そんな墓石を設置するな!」とキレたX。XとYの争いは裁判になっちゃいました。
Yは、第1審係属中にD宗の信徒でなくなりました。こうした事情もふまえて、原審は、XとYの当初の合意はもはやYに効力を及ぼさないと判断。「Yが設置したがっている墓石は甲寺の墓地になじむから問題ないでしょ?甲寺はYに墓地を使わせてやれよ」と言って、Yを勝訴させました。
一方、最高裁は、次のように述べて、原審の判決を覆しました。(全文はこちら)
寺院が檀信徒のために経営するいわゆる寺院墓地においては、寺院は、その宗派に応じた典礼の方式を決定し、決定された典礼を施行する自由を有する。したがって、寺院は、墓地使用権を設定する契約に際し、使用権者が当該寺院の宗派の典礼の方式に従って墓石を設置する旨の合意をすることができるものと解され、その合意がされた場合には、たとい、使用権者がその後当該宗派を離脱したとしても、寺院は、当該使用権者からする当該宗派の典礼の方式とは異なる宗教的方式による墓石の設置の求めを、上記合意に反するものとして拒むことができるものと解するのが相当である。
どんな事情があろうと、寺院は、墓地使用規則などに基づいて、異なる宗教的方式による墓石の設置を拒否できるってことです。
ご先祖様と子孫のどちらを選ぶかでトラブル解決法が変わる
寺院側の言い分を認めた最高裁判例がある以上、相談者のケースでは、裁判になったとしても相談者は負けるでしょう。
となれば、相談者は、Y寺の住職の要求を呑むか、お墓を移転するか、いっそのことお墓を潰す「墓じまい」をするか、のいずれかを選択する必要があります。
先祖代々のお墓を移転したり潰したりすることにためらいがあるかもしれません。しかし、誰かがトラブルと向き合っておかないと、お墓を相続した子孫にも迷惑がかかります。ご先祖様に遠慮して不満を飲み込むか、子孫のために勇気ある決断をするか、どちらかを選択する必要があります。