私は、毎回コミケに参加しているコスプレイヤーですが、先日の夏コミでとてもショッキングなことがありました。
無断撮影された私の写真が、サブカル系大手メディア『サブカルック』の「今年の夏コミも美人コスプレイヤーが熱い!炎天下で輝く美女たちを大公開」というネット記事で使われたんです!上手に撮れてるとはいえない写真なので、余計に許せません!
確かに私は囲み撮影OKにしてますよ。でも、それはカメコさんが個人で楽しむ範囲で許可してるんであって、大手メディアの取材ならば話は別です。ちゃんと許可を取れよ、マジで!
さらにムカつくのが、『サブカルック』に公開された写真が、他のまとめサイトにも転載されてたこと!そのまとめのタイトルが「めちゃシコッ!オカズレイヤー特集」って……。ふざけんなよ!
これ、訴えちゃっていいですか?
世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット」通称「コミケ」。当日は、首都圏を中心に、全国各地からたくさんの人が集まって、会場の東京ビッグサイトの人口密度が凄まじいのなんのって……。
そのくらい人が集まるわけですから、当然トラブルもあちこちで発生します。徹夜組や転売ヤーがどうとか、叶姉妹や小林幸子が出展したとか、よく話題になります。
そして、コミケ名物コスプレエリアでも、コスプレ撮影を巡るゴタゴタがあります。特に多いのが、相談者のような無断撮影のケース。しかも、無断撮影を大手メディアの取材班がやらかしたとしたら……。これは法的にどう評価されるんでしょうか?
コミケについてざっと解説
本題に入る前に、「コミケって何?」という読者のために、コミケについてざっと解説しますね。
コミケは、お盆の時期と年末の年2回開催されます。お盆のコミケは「夏コミ」、年末のコミケは「冬コミ」と呼ばれます。主催者はコミックマーケット準備会です。
コミケの入場料は無料です。会場では、カタログが2000円で販売されていますが、購入しなくても入場できます。カタログは、記念に購入したり、広い会場で迷わないための案内書として使ったりするものなんで、欲しい人だけ買えばOK!
コミケ会場は、3つのエリアに大きく分かれます。
1つめは、同人サークルの東ホール。同人誌というと、既存のマンガやアニメなどのキャラクターを利用した二次創作というイメージがありませんか?実際、コミケでは、そうした二次創作がメインです。しかし、日や場所によって、二次創作以外の鉄道や旅行、育児、グルメなど、さまざまなジャンルの同人誌も販売されます。
2つめは、企業ブースの西ホール。各企業がグッズを販売したり、イベントを開催したりします。売り子さんが美人ぞろいで撮影OKの場合も多いので、彼女たちを目当てに独身男性が西ホールをウロウロ……(笑)
3つめは、エントランスプラザ、東ホールや西ホールのトラックヤード、西ホールの屋上展示場、庭園などのコスプレエリア。さまざまなキャラクターの衣装をまとったコスプレイヤーと交流できるエリアです。コスプレエリアはいずれも屋外なので、夏コミのときは、太陽の日差しと人ごみの熱気で灼熱地獄と化します。夏コミで長時間のコスプレ撮影に臨むカメラマンは熱中症に要注意です。
コスプレエリアでコスプレイヤーを撮影する際のルール
コスプレエリアでは、美少女コスプレイヤーが大人気です。
コスプレイベントなどで人気のコスプレイヤーを無料で撮影できます。ただし、撮影したい人はマナーをきちんと守る必要があります。
人気の美少女コスプレイヤーは、列に並んで順番を待ち、自分の番になったら撮影させてもらいます。「無断撮影OK」などと掲げられている場合以外は、声をかけて許可を得てから撮影するのが原則です。無許可で撮影するのはNG!
一方、コスプレイヤーをグルッと取り囲んで撮影する「囲み撮影」もあちこちで行われています。囲み撮影に参加する場合も「お願いしまーす!」という一言はあった方がいいですね。
撮影した写真をネットに掲載したい場合も、きちんとコスプレイヤーに許可を取らなければなりません。
また、無断撮影だけでなく、コスプレイヤーを不快にさせる行為や通行の妨げになる行為もすべてダメです。たとえば、ポージングの強要や長時間の撮影、極度なローアングルでの撮影などは公式でも禁止されています。
コスプレイヤーの無断撮影は取材でも違法の可能性大
「コスプレ撮影ではルールやマナーが大切です」といわれても、それを守らない輩がいるのは確かです。
たとえば、庭園コスプレエリアにおける囲み撮影では、コスプレイヤーの足元に接近してローアングルで撮影しようとしているカメラマンがいたんですよ。コスプレイヤーが「もっと離れて!」と叫んでいるのに、カメラマンはコスプレイヤーのスカートの下から……。もはや犯罪!
それから、企業の取材で入っているカメラマンが勝手に撮影していくって話も時々聞きます。「コミックマーケット準備会から取材許可を得ているから何をしてもOK」と勘違いしているのかもしれません。
そんな悪質なカメラマンに撮影されて、しかもその写真を勝手にWebメディアの記事に使われたら、コスプレイヤーは、無断撮影したカメラマンやその写真を掲載したメディアの運営元を訴えられるんでしょうか?
参考になるのは、最高裁の平成17年11月10日判決です。(全文はこちら)
もっとも、人の容ぼう等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
この判例は、以下の記事でも紹介しました。
最高裁は、無断撮影が違法になるかどうかについて、受忍限度論から判断しています。
受忍限度論とは、個人の利益と公共の利益とを天秤にかけて、どちらがより大切かを判断する基準のことです。詳細は以下の記事を参照してください。
特に、取材は国民の「知る権利」に関わるので、時として個人の人格的利益に優越することもありますが……。
う~ん、政治家や芸能人の取材ならまだしも、コスプレイヤーを無断撮影する取材が、「知る権利」を根拠にして合法ってことになりますかね?違法になるんじゃないですか?
裁判所が取材を違法と判断すれば、無断撮影したカメラマンやその写真を掲載したメディアの運営元は、被害者のコスプレイヤーからの損害賠償請求に応じなければなりません。
参加者全員が笑顔になれるコミケを目指して
相談者は、まず『サブカルック』の運営元に問い合わせてみるのがいいでしょう。運営元がまともな企業ならば、ネット記事から画像を削除してくれるはずです。
その上でまだ不満が残るなら、今回紹介した判例を見せながら「訴訟を起こすことも考えています」と言って、運営元と示談金の交渉をしてみるのも有りでしょうが……。そこまですることにメリットがあるかどうかを考えてくださいね。
「めちゃシコッ!オカズレイヤー特集」の方は……。叩き潰しちゃいましょう!
コミケは、参加者全員の協力によって成り立っているイベントです。参加者全員が笑顔になれるように、一人一人のモラルが問われます。
2018年の夏コミでは、危険物の持ち込みを防ぐため、一般参加者の手荷物確認を実施するという話だよ。東京オリンピックが近いから、テロ対策の一環として、警察が警備強化を要請してきたんだって。
コミケのように、人がたくさん集まるけれど警備が手薄になりがちな場所は「ソフトターゲット」というんだよ。ソフトターゲットは、テロリストたちが攻撃の対象にすることが多いから、警察もピリピリしているんだ。