私たち夫婦は2年前、汀貫工務店(ていぬきこうむてん)に依頼して、郊外に一戸建てを新築しました。2000万円の費用はこの2年間でがんばって、すべて支払いました。
そんな私たちの家が、先日の地震でボロボロになったんです。揺れは震度5弱だったんですが、あちこちの壁に亀裂が入って、ドアや窓の開け閉めも困難になりました。何よりも、家全体が微妙に傾いてしまったんですよ。床にボールを置くと、東の方角にコロコロコロ……。
「どうしたものか?」と思って友人の建築士Aさんに相談したら、Aさんが家を簡単に調査してくれて、不同沈下が原因と判明しました。「このままだと、また地震が起きたら倒壊する恐れがある」とも言われました。私たちの家は欠陥住宅だったんです。
後日汀貫工務店に相談したところ、「補修する」とのことでしたが、私たちが求めるのは補修ではなく建て替えです。もちろん費用は汀貫工務店に全額負担させたいと思っています。
そこで、Aさんの調査結果を見せながら「訴訟も辞さない」という態度を示したら、汀貫工務店が「2年間も住んでいた家を建て替えるのに、弊社が費用を全額負担するのはおかしい。住んでいた年数分は費用から減額されるべきだ」と言い始めました。
汀貫工務店の言い分は通るんでしょうか?
苦労して建てた夢のマイホーム!
ローンを完済してホッとしたのもつかの間、実は欠陥住宅だったという事実が明らかになったら……。地獄へ一直線ですね。
そんな欠陥住宅を売りつけやがった工務店に損害賠償請求する場合、何をどのくらい支払わせることができるんでしょうか?
建て替えが必要なレベルの瑕疵で損害賠償請求へ
阪神淡路大震災や東日本大震災など、何十年かに1回は巨大地震に見舞われる日本列島。平成30年には、岡山、広島、愛媛の3県を中心に、台風や梅雨前線などの影響で集中豪雨が発生し、多くの住宅が水没しました。
災害が起こるたびに問題となるのが欠陥住宅!
地震や台風で倒壊したり、引火して延焼したり、排水が上手くいかずに浸水したり……。そんな住宅には、もともと瑕疵(欠陥)があったと考えられます。
瑕疵といっても、建付けの不良やちょっとした雨漏り程度なら、工務店などに補修をお願いすればOK。場合によっては、瑕疵担保責任(民法570条)に基づいて損害賠償請求するのも有りです。
瑕疵担保責任については、以下の記事を参照してください。
一方、相談者のケースのように、建て替えが必要なレベルの瑕疵となると、「居住者の生命や財産に危険をもたらしている」「被害が発生している」ってことなので、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求も考えられます。請求額はかな~り高くなるので、工務店などと揉めるなんてことに……。そうなったら、示談では解決できず民事裁判に突入って流れになるでしょう。
相談者の言う「不同沈下」って何なの?公害訴訟なんかで「地盤沈下」という言葉を聞くけど、これと不同沈下は違うのかな?
現象としては似ているけど、訴訟や保険適用の上では全くの別物として扱われるよ。地盤沈下は、特定の建物だけが沈むんじゃなく、周辺一帯が沈んじゃうんだ。しかも、地震で地形が変わったり、地下水をくみ上げすぎたりすることで起こるので、欠陥住宅訴訟で問題となる瑕疵ではない。
不同沈下は、盛土や造成がいいかげんだと起こるってことだね。
特に、独立した基礎が家を支える布基礎(ぬのきそ)の場合、下の図のように不同沈下を起こしやすいんだ。
欠陥住宅訴訟では建築士に調査や鑑定を依頼する
一般的に、欠陥住宅訴訟は、弁護士だけでなく、建築士の力も借りながら進められます。欠陥住宅の瑕疵(欠陥原因)を具体的にあぶり出し、手抜きの実態(責任根拠)を明らかにするため、建築士に調査や鑑定を依頼するんですね。
このときに作成された「調査報告書」「鑑定意見書」などは、客観的・科学的な証拠となって裁判の行方を左右します。
欠陥住宅訴訟の準備として、相談者のように友人知人に建築士がいるなら、その建築士に協力をお願いするのがいいでしょう。人脈が無い場合、弁護士に相談すれば、建築士を紹介してくれるはずです。
調査や鑑定には数万円から十数万円かかりますが、そこをケチってはいけません。たとえ友人知人にお願いするにしても、「タダでやってもらう」はNG!
欠陥住宅を供給した売主を追い詰めたければ、然るべき対価を支払って、裁判を有利に進めるための書類をしっかり作ってもらいましょう。
このときかかった費用は、裁判で勝てれば回収できますよ。
耐用年数が伸びた分の利益を損害額から控除?
訴えられた売主の中には、汀貫工務店のように「住んでいた年数分は費用から減額されるべきだ」と主張する輩もいるでしょう。
そもそも、どうしてこんな主張が成り立つんでしょうか?
住宅などの建造物の価値を判定する場合、耐用年数を考えます。耐用年数とは、物が使用に耐えられる年数のことです。
建物や機械、自動車などの耐用年数は法的に決められていて、これに基づいて税務上は減価償却(使用年数に応じて、年ごとに分割して経費にすること)を行います。住宅の法定耐用年数は、次の一覧で確認してくださいね。
耐用年数を考えると、同じ建物でも、3年前に建てられたものと10年前に建てられたものとでは、全然価値が違うんですね。当たり前ですが、新しければ新しいほど価値が高くなります。
相談者は2年で新しい家を建て替えるので、その2年分の耐用年数に相当する価値を得られるってことになります。この価値の分を減額するべきだと汀貫工務店は言ってるんですよ。
でも、汀貫工務店の言い分は通りません。なぜなら、最高裁が平成22年6月17日に、次の判決を下したからです。(全文はこちら)
売買の目的物である新築建物に重大な瑕疵がありこれを建て替えざるを得ない場合において、当該瑕疵が構造耐力上の安全性にかかわるものであるため建物が倒壊する具体的なおそれがあるなど、社会通念上、建物自体が社会経済的な価値を有しないと評価すべきものであるときには、上記建物の買主がこれに居住していたという利益については、当該買主からの工事施工者等に対する建て替え費用相当額の損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として損害額から控除することはできないと解するのが相当である。
「社会経済的な価値を有しないと評価すべきもの」つまりゴミを提供した売主が、「ゴミに住んでいた年数分の利益を損害額から差っ引くね!」と主張するのは許さないってこと!
さらに、宮川光治判事は補足意見で、「耐用年数が伸びた分の利益を減額するのを許したら、賠償を遅らせれば遅らせるほど、売主が得するじゃん!そんなの公平じゃねえだろ?」と言ってとどめを刺しちゃってます。
欠陥住宅訴訟では強気の姿勢で売主と交渉すべし
相談者のケースでは、建て替えにかかる費用(欠陥住宅の取り壊し費用&新しい家の建設費)、建築士に依頼した調査や鑑定にかかった費用、弁護士費用、住宅ローンの金利や手数料、精神的損害などに対する慰謝料を請求できます。
慰謝料は100万円程度だといわれているから、バカにならないですね!
さらには、建て替え期間中の引っ越し費用や仮住まいの家賃なども請求するといいですよ。引っ越しは結構お金がかかりますし、物理的な負担も大きいですからね。欠陥住宅の売主にきちんと負担させましょう。
仮住まいを探す場合は、日本全国の賃貸物件を掲載している「キャッシュバック賃貸」がとってもお勧め!
キャッシュバック賃貸を利用すれば、引越し祝い金をもらえるのが嬉しいですね。訴訟だ何だとお金が必要な時期ですから、最大10万円がもらえるのは本当にありがたい!
欠陥住宅訴訟は、最高裁判例もあるので、専門家の力を借りながら強気の姿勢で売主と交渉することが大切ですよ。