私の息子は私立A高校に通っていて、サッカー部に所属しています。
そのサッカー部の顧問が熱血というか何というか……。土砂降りでも、カミナリが鳴っていても、練習試合を中止しようとしないんですよ。「カミナリが怖くてサッカーが上手くなるわけないだろ!」と息子たちには言ってるって聞いてます。
親としては落雷事故がとっても心配!顧問に改善を求めたいんですが、どのように話せばいいんでしょうか?
相談者の話に登場する顧問みたいに、「脳みそが筋肉」略して「脳筋」のバカ教師っていますよね。そんな顧問が支配する部活に子どもが所属していると、親の心配は尽きないと思います。
相談者のケースですが、最高裁判例があるので、「雷が鳴っているときは練習や試合を中止してください!もし事故が起こったら訴えますよ!」と強気の姿勢で顧問や学校と交渉しましょう。
というわけで、今回は、学校の部活動と落雷事故に関する最高裁判例を紹介します。
落雷事故の責任を巡って争われた土佐高校事件とは?
大阪府高槻市で1996年8月、土佐高校に通っていた1年生男子、北村光寿さんがサッカー大会の試合中に落雷に遭いました。光寿さんは命を取り留めたものの、視力を失い、手足が不自由になるなど、重度の障害が残ってしまいました。
光寿さんと家族は、土佐高校と大会の主催者、高槻市体育協会に約6億4600万円の損害賠償を求めました。
土佐高校は私立高校で、高槻市体育協会は大阪府教育委員会の認可を受けた財団法人でした。そのため、光寿さん側は民法の債務不履行(415条)と不法行為(709条・715条)を根拠に訴えました。
1審、2審は光寿さん側の敗訴。しかし、最高裁は平成18年3月13日判決で次のように述べ、2審判決を破棄して、事件を高松高裁に差し戻しました。(全文はこちら)
雷鳴が大きな音ではなかったとしても、同校サッカー部の引率者兼監督であったB教諭としては、上記時点ころまでには落雷事故発生の危険が迫っていることを具体的に予見することが可能であったというべきであり、また、予見すべき注意義務を怠ったものというべきである。このことは、たとえ平均的なスポーツ指導者において、落雷事故発生の危険性の認識が薄く、雨がやみ、空が明るくなり、雷鳴が遠のくにつれ、落雷事故発生の危険性は減弱するとの認識が一般的なものであったとしても左右されるものではない。なぜなら、上記のような認識は、(中略)当時の科学的知見に反するものであって、その指導監督に従って行動する生徒を保護すべきクラブ活動の担当教諭の注意義務を免れさせる事情とはなり得ないからである。
注意義務違反の検討で、予見可能性と結果回避義務の2点がポイントです。
最高裁は、「落雷事故を予見できたのに、それをサボったよね?」と言って、引率教諭の注意義務違反を認めました。また、予見可能性については、平均的なスポーツ指導者の認識ではなく、当時の科学的知見をふまえて判断しています。
だだっ広い場所にいる人はカミナリの直撃を受けやすい
落雷事故では、多くの場合、被害者は感電死します。幸いにして命を取り留めても、土佐高校事件のケースのように重度の障害を負ったら、その後の人生が大変です。
また、被害者の体に放電痕が残ることもあります。この痕は「リヒテンベルク図形」とも呼ばれていて、ぱっと見アートなんですが、被害者からしたらアートどころじゃありません。
最高裁判例の記述によると、日本における落雷事故は、平成5~7年までで毎年5~11件発生し、毎年3~6人が死亡しているそうです。
気象庁のHPには、最近(平成24~26年)の落雷による死亡事故の例が掲載されています。
電気を通しにくい樹木に落雷すると、その後そばにいる人間に放電する「側撃(そくげき)」が起こります。木の下にいる人間が落雷事故に遭いやすい理由です。
「カミナリが鳴っているときは、木から離れなさい」と子どもの頃から注意されてきたと思いますが、それは側撃がチョー危険だからなんですよ。
平成24~26年の死亡事故を見ても、木の下で雨宿りしていた人の事例が多く見られます。
一方、野球場や海、山頂など、だだっ広い場所にいて落雷に遭う死亡事故も少なくありません。カミナリは周囲よりも高いものに落ちる性質があるからです。
だだっ広い場所でカミナリが直撃した被害者は約8割が死亡するんですよ!
土佐高校事件は、無知なB教諭のせいで起こった“人災”というべき事故だったんですね。
億単位の賠償金支払いによって破産した高槻市体育協会
土佐高校事件の差し戻し控訴審判決では、高松高裁が「落雷の危険が迫っていることを具体的に予見可能だった」として、民法の不法行為法に基づいて土佐高校と高槻市体育協会に約3億700万円の支払いを命じました。
この後、高槻市体育協会は、年間約2300万円の補助金を受けている高槻市から予算措置を拒否されて、なんと破産!
一方、土佐高校は自己負担分の賠償金を払った上で、高槻市体育協会の残額分約8千万円を肩代わりして支払いました。
こうした経緯から、「高槻市は、土佐高校に賠償を押し付けて、高槻市体育協会をリストラしたのでは?」という黒い噂が流れましたが、真相は闇の中……
いずれにしても、賠償金の支払いは法人を破産させかねないってのは事実!
また、教師個人の不法行為でも、使用者責任を定めた民法715条から、その教師が所属する学校にも損害賠償責任が及びます。
学校教師は危機管理失敗のリスクを十分に理解しておくべきだと思います。
判例を武器に脳筋のバカ教師と徹底的に戦うべし!
相談者はまず、顧問に「カミナリが鳴っているときは、練習も試合も中止してください」と話をしてみるといいでしょう。
もし顧問がグダグダ言うようなら、校長に直談判するのが効果的なはずです。土佐高校事件の最高裁判例と事件の経緯を伝えれば、校長はビビると思いますよ。
落雷事故が起こって巨額の賠償金を支払うなんて事態になったら、学校にとってはかなりのダメージですからね。校長はすぐに顧問を厳重注意するんじゃないでしょうか?
保護者には、自分の子どもを守る義務があります。
遠慮する必要はありません。判例を武器に脳筋のバカ教師と徹底的に戦いましょう!
学校の部活動で事故が起こって裁判になると、「顧問の先生は実質ボランティアで部活をしている。それなのに、責任を追及すると、顧問の成り手がいなくなって、部活が委縮する」という意見が出てくる。でも、この意見自体がそもそもおかしいんじゃないかな?
部活は正規の教育課程には組み込まれていなくて、「生徒が自主的に取り組む活動」ってのが建前だ。
それなのに、学校によっては、全校生徒が部活に強制参加させられたり、「うちの学校は部活が活発です」のように学校の宣伝として使われたり……。
そんな部活に対して、一部の先生や生徒は嫌気が差しているみたいだね。最近では、長時間拘束や体罰がひどい部活は「ブラック部活」なんていわれてるよ。
「自主的に部活をしたい」っていうなら、国は「部活動手当」という端金で先生に顧問を押し付けるのをやめるべき。外部からプロの指導者を招いて、科学的知見に基づいた適切な指導を徹底し、事故が発生した場合の責任の所在も明らかにしてほしい。
外部から指導者を雇うってなれば、「ボランティアでお願いします」とは言えなくなるよね。だったら、生徒たちから定期的にそれなりの額の部費を徴収して謝礼に充てるってことになりそうだ。「部費が高いから無理」となる生徒も出てくるだろうけど、それは仕方ない。
「技術を学ぶにはお金がかかる」という当たり前のことを生徒たちに教えるチャンスになるんじゃないかな?
部活の在り方に限らず、日本人の議論では、現状維持をしたいがために論理を封じ込めちゃうよね?「ボランティアに重い責任を押し付けるのは酷だ」と思うなら、ボランティアで運営している現状の改善をまずは検討するべきなのに、なぜかそうならない。
「労働力はタダ」と考える連中が多いんだろうね。東京オリンピックのボランティアがボコボコ叩かれている背景には、日本社会が抱える矛盾があるように思うんだ。