私は、A社から借りたお金を、昨年5月に利息も含めて完済しました。その後、私は20万円も多く支払っていたことを知り、この過払金を返してもらいたいと思っています。
ただ、A社は昨年10月にB社へ資産譲渡し、現在は貸金事業から撤退しています。だから、A社に「過払金を返してください」と電話しても、「そういう話はB社にお願いします」の一点張りで話になりません。
この場合、B社に過払金返還を請求できるんでしょうか?
「借金を返済したー!!」と思って喜んでいたら、払い過ぎていたことが発覚して「うわぁ……」となる人が時々います。
そこで、相談者のように過払金を返してもらおうと思ったら、いつの間にか資産譲渡が行われていて……。こういう場合、過払金は戻ってくるのでしょうか?
グレーゾーン金利の消滅と過払金返還請求
かつては利息制限法の定める上限金利(年15~20%)と出資法の定める上限金利(年29.2%)の間に大きな開きがあって、これが原因で「グレーゾーン金利」が生じていました。
しかし、平成22年に改正貸金業法などが施行されて、上限金利が20%まで引き下げられたため、グレーゾーン金利が無くなりました。サラ金会社はあまり儲からなくなっちゃったんですね。
一方、グレーゾーン金利で借金を返済し続けていた人は払い過ぎたことになります。その払い過ぎた分を取り戻そうとする過払金返還請求の訴えが、近年では日本全国で起こされています。
サラ金会社の間で債権譲渡がしばしば行われる
債権とは、ある人がある人に特定の行為を要求できる権利をいいます。たとえば、お金を貸した人が、借りた人に対して「お金を返せ!」と言えるのが債権です。逆に、債務とは、ある人がある人に特定の行為をしなければならない義務をいいます。借金の例だと、お金を借りた人はお金を返さなければなりませんが、これが債務です。
債権者が債権をそっくりそのまま他人に譲り渡すことが債権譲渡です。この債権譲渡については、原則として債務者の同意は必要ありません。だから、サラ金会社が借金を取り立てる権利を「ヤ」で始まるご職業の方々に譲渡したら……。債務者は恐ろしくて夜も眠れなくなっちゃいます(笑)
そんな物騒なことはないにしても、サラ金会社の間では、債権譲渡がしばしば行われます。マルフクとタイヘイの債権がCFJへ、株式会社プライムからSBIイコールクレジットへ、サンライフとクオクローンからプロミスへ、といった具合で債権があっちに行ったりこっちに行ったり……。
借金返済だけならどこの会社が債権者でも同じですが、困るのは過払金が発覚したときです。債権を譲り受けた会社に「過払金を返せ!」と言えるのかどうかが問題です。
債権譲渡で過払金のトラブルまで譲渡されない
「債権譲渡されたんだから、その債権にくっついていた諸々のトラブルも一緒に譲渡されたんじゃね?」と思うのが一般人の感覚のような気がします。大阪高裁は「貸付債権と過払金返還債務は性質上表裏一体である」という判決を下し、同様の立場をとる下級裁判所が他にもありました。
しかし、最高裁は平成23年3月22日に次の判決を下して、下級裁判所の判決を覆しちゃいました!(判決文全文はこちら)
(前略)貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において、譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは、上記合意の内容いかんによるというべきであり、それが営業譲渡の性質を有するときであっても、借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできない……
要は、サラ金会社同士の譲渡契約で「過払金の関するトラブルも譲渡するからね!」となっていない限り、譲渡先の会社は過払金返還請求に応じる必要はないってことです。
普通に考えて、譲渡契約の中で不利な条件まで譲渡する合意がなされることはないでしょう。となれば、債務者の知らぬ間に過払金返還の道が閉ざされてしまうんですから、「これって常識的に考えてどうなのよ?」と思わなくもないですが、最高裁の判例を受け入れるしかありません。
最高裁がサラ金会社の味方をしたのはどうしてかな?
平成22年6月に出資法の上限金利が引き下げられて、グレーゾーン金利が廃止されたんだ。これによって、暴利をむさぼってきたサラ金会社の経営が苦しくなって、倒産する会社も出てきた。武富士がその代表だよね。
一方、サラ金に対する法的・政治的圧力が強くなりすぎると、サラ金会社がお金を貸すことをためらうようになって、お金を借りたいのに借りられない人が出てきちゃう。
だから、最高裁はサラ金会社に譲歩したんじゃないかな?
債権譲渡前の会社に過払金返還請求をしよう
債権譲渡が行われた後の借金返済で過払金が発生すれば、それを譲渡先の会社に返還請求できます。また、債権譲渡前の会社が倒産していないなら、そっちに過払金返還請求することが法的には妥当です。
相談者の場合、判例に照らし合わせれば、B社に過払金返還請求をしても勝ち目はないでしょう。A社が何と言おうとも、A社に請求すべきです。