母の遺骨をどうしようか考えています。
私の母は若い頃に離婚していて、親類縁者との付き合いもありませんでした。なので、ご先祖様と同じお墓に入るという選択肢はそもそも無く……。
そんな母をどう供養しようか悩んでいたんですが、最近、とても興味深い埋葬法をネットで見つけました。『トムライガーデン』の樹木葬です!『トムライガーデン』は、従来の墓地とは違う庭園に遺骨を埋葬し、そこにツツジやハナミズキなどを植えるんですよ。遺骨は肥料と混ぜ合わせて、木の栄養になるようにするんですって!
母はガーデニングが好きだったので、樹木葬をきっと喜ぶはず。それに、『トムライガーデン』なら管理費も不要なので、私にとっても経済的だし……。
ただ、『トムライガーデン』の樹木葬は法的に問題ないのか、それだけが心配です。
日本において、木を墓石の代わりにする樹木葬は、法的にOKなのでしょうか?裁判所の判断を確認してみましょう。
墓地以外の場所に遺骨などを埋葬するのはNG!
最近、海などに遺骨を撒く散骨をはじめ、自然の中に遺骨や遺灰を還す自然葬が静かなブームになっています。
その背景には、核家族化や非婚などが進んで、先祖代々のお墓が敬遠されるようになってきたという現代的な事情があります。また、「自然に還りたい!」「環境に負荷をかけたくない!」といった考え方もじわじわ浸透してきているんでしょう。
とはいえ、「お母ちゃんの骨を近所の川に沈めちゃえ!」ってわけにはいきません。なぜなら、墓地、埋葬等に関する法律4条1項で次のように定められているからです。
埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。
さらには、刑法190条などにも引っかかる可能性があります。
そりゃそうでしょう。
近所の公園を散歩していたら、池の中から白骨が……。な~んてことになったら、かなりびっくりしますからね。あちこちに遺骨などを埋めちゃダメ!
遺骨を埋葬するのは、亡くなったペットの亀を庭の片隅に埋めるのと同じではありません、当然ですけど。
遺骨を混ぜた肥料の散布も墓埋法の規制を受ける
じゃあ、自分の所有する土地に「ここはお墓です!」と立札を立てて、そこに遺骨などを埋葬したら?
これもNGです。
やはり墓地、埋葬等に関する法律10条1項に次のように定められているんですよ。
墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない。
墓地を作るにも、いちいち都道府県知事の許可が必要なんです。
ただ、遺骨を完全に粉砕して撒く散骨は、節度をもって行われる限りは一応OKとされています。
この「節度をもって」というのは、「他人の土地に撒くな」とか「養殖場の近くで撒くな」とかです。食べたお魚が実は人骨をエサにして育っていた……ってのは、人によっては(というか、ほとんどの人にとっては)トラウマものですからね。そういうトラブルを防ぐのが目的です。
話を元に戻して、墓地です。
墓地の経営にも許可がいるってことは、無許可で墓地を運営したらアウトってことでもあります。もし、そんな違法な墓地経営を行っているところに遺骨を埋葬したら、後々トラブルになるのは、火を見るよりも明らかでしょう。
じゃあ、何が墓地で、何が墓地じゃないのか、というのが問題です。遺骨を混ぜた肥料を使って樹木を育てるのは墓地経営に当たらないのでしょうか?
この点について、東京高裁が平成24年3月7日に出した判例があります。(全文はこちら)
(前略)「人の焼骨」を混合加工した本件肥培剤を本件土地に撒布して樹木を植栽するという本件手順は、「葬送の標樹」を設けて「人の焼骨」を地面に撒くことが、一般には墓埋法に抵触すると行政上取り扱われることから、その抵触を回避して、これを行うことを可能とするために考案されたものと推認するのが相当である。
某法人(被控訴人)が「粉砕した遺骨を混ぜた肥料を使って樹木を育てる『農業』を始めます。だから、この農地の取得を認めてください」と東京都α町農業委員会(控訴人)に許可申請したものの、不許可になりました。東京都α町農業委員会は「あんたのやってることは農業じゃなくて墓地経営だから!」と突っぱねたんですね。これに対して、某法人は「不許可処分は違法だ!」といって訴えました。
1審は某法人の言い分を認めましたが、2審でそれが覆りました。
「肥料」という名目であっても、それに遺骨を混ぜて散布する行為は墓地、埋葬等に関する法律に引っかかるってことです。
樹木葬に興味があるならば、まずは情報収集から
墓地経営の許可を得ていないところと契約すると、今回紹介した判例のようなことになって、遺骨を埋葬できないまま「払ったお金はどうなるの?」となりかねません。
相談者の場合、まずは『トムライガーデン』が行政庁の許可を得ているかどうかを確認すべきです。そのあたりがあいまいならば契約しちゃダメですよ。
日本では戦後に家制度が廃止されて、「●●家の誰それ」としてではなく、個人が尊重される社会になった。でも、お墓だけは「●●家のお墓」として、親から子へ、子から孫へと代々受け継がれるのが一般的だ。今でも、「自分の代で家のお墓を潰してはいけない」と思い込んで困っている人たちは多そうだね。
もちろん、そういう人たちはいるだろうね。でも、1980年代後半から、継承者を必要としないお墓が登場して、「家のお墓」という概念がかなり弱まってきたのも事実だ。90年代には散骨や樹木葬なども紹介されるようになってきたしね。最近では、「家のお墓」を潰す「墓じまい」も増えているよ。