2018年6月18日朝、大阪市北部で震度6弱の地震が発生しました。そんな中、高槻市にある寿栄小学校で、プールのブロック塀が通学路の道路に倒壊。登校中の小4女児(9)が下敷きになって死亡しました。この事故に関しては女児に過失が無いため、学校と市の責任がこれから追及されていくのでしょう。
一方、相談者のように、事故に遭った児童に過失がある場合、学校や地方自治体の責任はどうなるのでしょうか?最高裁の判例から考えてみましょう。
公の営造物の設置や管理に瑕疵があれば損害賠償請求できる
国家賠償法2条1項では次のように定められています。
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。
学校の校舎や体育館、校庭の遊具などの建造物は「公の営造物」に当たります。これらに設置や管理に瑕疵がある場合、被害者は学校を運営する国や地方公共団体に損害賠償を請求できます。
「瑕疵」とは傷や欠点のことです。校庭に穴ぼこがあるのに放置していたとか、老朽化した校舎の床が抜けたとか、そういうのを瑕疵といいます。
ただし、被害者が予想外の行動をとったために起こった事故については、国や地方公共団体の責任が免除されることがあります。たとえば、階段の手すりにまたがって滑り降りる遊びをしていた男児が、運悪く手すりの出っ張りに大事な部分をぶつけて潰れちゃった、みたいな場合は「男児が悪い!」ってなります。手すりは本来手を添えるべきものなので、またがっちゃいけません。
とはいえ、幼い児童は思考が未熟で、ちゃんと善悪が判断できるとも限りません。そんな児童に対して、何でもかんでも「お前が悪い!」では、さすがに気の毒すぎますよね?
というわけで、最高裁がどんな場合に国や地方公共団体の責任を認めているのかを確認しましょう。
幼い子どもの妙な行動が原因の事故はどう評価されたか?
今回紹介するは、岩手県の釜石市立中妻小学校のプールに3歳の幼女が転落して溺死するという痛ましい事故の最高裁判決です(釜石市立中妻小学校は廃校)。その中で、最高裁は次のように述べています。(全文はこちら)
今日の判例小学校敷地内にある本件プールとその南側に隣接して存在する児童公園との間はプールの周囲に設置されている金網フエンスで隔てられているにすぎないが、右フエンスは幼児でも容易に乗り越えることができるような構造であり、他方、児童公園で遊ぶ幼児にとつて本件プールは一個の誘惑的存在であることは容易に看取しうるところであつて、当時三歳七か月の幼児であつた亡Dがこれを乗り越えて本件プール内に立ち入つたことがその設置管理者である上告人の予測を超えた行動であつたとすることはできず、結局、本件プールには営造物として通常有すべき安全性に欠けるものがあつたとして上告人の国家賠償法二条に基づく損害賠償責任を認めた原審の判断は、正当として肯認することができる。
簡単にいうと、「児童公園とプールを隔てるフェンスは幼児でも乗り越えられるよね?」「幼児がプールに心惹かれてフェンスを乗り越えることは予想できるよね?」という2点から、フェンスを設置した釜石市の責任を認めました。
最高裁の判例を読む限り、幼い子どもの妙な行動が原因の事故でも、それをある程度予想できるならば、国や地方公共団体はかなり高度な防止策を講じる必要があるみたいですね。
もっとも、この判例では、裁判官の一人が「幼児の行動は予測不可能だったから、それを防止しろってのは無理じゃね?」という反対意見を述べています。どの程度の防止策を要求するかは、裁判官によって判断の分かれるところなのでしょう。
ちなみに、国家賠償法2条1項は無過失責任です。公の営造物の設置や管理に問題があれば、それを行う国や地方公共団体に過失があろうとなかろうと損害賠償請求できます。つまり、被害者救済に重きを置いた条文だといえます。
地震で倒壊する恐れのあるブロック塀を放置してはいけない
相談者のケースでは、A町が、地震で倒壊することが予想されるブロック塀を放置していたことにそもそもの問題があります。しかも、ブロック塀に児童が近づかないようにする方法が、注意するとか、ロープを張るとか、そんなんじゃ、低学年や中学年の小学生にはあまり効果がなさそうですし……。A町や学校は、事故の発生を簡単に予想できますよね?
「立ち入り禁止」の場所に立ち入る子どもが悪いのは確かです。だからといって、A町や学校の責任が完全に否定されることはないでしょう。
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