毎年学生の夏休みが終わることになると話題になる「宿題代行業者」。その名の通り、小中高生に代わって夏休みの宿題を仕上げてくれる業者ですが、これって合法なんですかね?
違法っぽい気もしますが、弁護士によっては「損害賠償や刑事罰の対象にするのは難しい」と言っています。
現在のところ、はっきりとした見解は出ていないグレーな宿題代行業者について考えてみます。
目次
受験勉強に集中したいから宿題代行業者に依頼?
宿題代行業者が請け負う夏休みの宿題は、漢字の書き取りや計算ドリル、夏のワークなどの簡単なものから、読書感想文や自由研究といった面倒なものまでさまざまです。料金は、簡単なものならドリル1冊3千~1万円程度、面倒なものなら400字詰め原稿用紙3~5枚2~3万円程度のようです。
「簡単なドリルやワークくらい自分でやれよ!」って思いますが、宿題代行業者を利用する小中高生の中には「中学(高校・大学)受験の勉強に集中したいから」なんてのも!それを容認する親も親だと思うんですが、まあ、時代の流れというか何というか……
読書感想文や自由研究になると、「何をどうしたらいいのかわからな~い!」という子も多いでしょう。親が手伝うにしても、その親に時間的余裕が無いと厳しいわけで、そんな親子に対して宿題代行業者が「お金を払ってくれるならやってあげるよ」と悪魔のようにささやくんですね。
最近では、人権作文や税の作文といった、国が子どもたちを洗脳して奴隷化しようという魂胆が見え見えの、気持ち悪い上に人権侵害も甚だしい作文が夏休みの宿題の定番になっています。こんなのを書かなきゃいけない子どもたちが気の毒!
だからといって、宿題代行業者のやっていることが正当化されるかどうかはまた別問題です。
大人になれば、できないこと・やりたくないこと・面倒なことなどは外注するのは有りですし、そうすることが仕事を上手く回すコツだったりもします。しかし、学生時代は、安易に外注に頼らず、「無駄」も自分でやり遂げる経験をしておいた方がいいんじゃないでしょうか?
入学試験の替え玉受験は私文書偽造罪になる
宿題代行業者に限らず、子どもの夏休みの宿題を大人が手伝うってのは昔からありました。自由研究や自由工作などは、「親の宿題」な~んていわれるくらいですから(笑)
塾の先生や家庭教師が生徒の宿題を手伝うことも珍しくありません。もっとも「手伝う」とは言わずに、「フォローする」とカタカナ語でごまかしたりしますが……
学校の先生だって、こうした事情は分かっています。生徒の普段の成績からは考えられないような秀作が提出されたら、「こいつ、誰かに手伝ってもらったな」と思うでしょう。が、フツーはいちいちそんなことを突っ込んだりしません。学校の先生もヒマじゃないですから!
ただ、夏休みの宿題に対する評価が、何らかの形で(調査書や内申書として)受験結果にも影響する場合は要注意です。
というのも、入学試験の替え玉受験に関して、最高裁は平成6年11月29日に次の判決を下しているからです。(全文はこちら)
今日の判例なお、本件入学選抜試験の答案は、試験問題に対し、志願者が正解と判断した内容を所定の用紙の解答欄に記載する文書であり、それ自体で志願者の学力が明らかになるものではないが、それが採点されて、その結果が志願者学力を示す資料となり、これを基に合否の判定が行われ、合格の判定を受けた志願者が入学を許可されるのであるから、志願者の学力の証明に関するものであって、「社会生活に交渉を有する事項」を証明する文書(最高裁昭和三三年(あ)第八九〇号同年九月一六日第三小法廷決定・刑集一二巻一三号三〇三一頁参照)に当たると解するのが相当である。したがって、本件答案が刑法一五九条一項にいう事実証明に関する文書に当たるとした原判断は、正当である。
刑法159条1項は文書偽造罪を定めています。つまり、替え玉受験は犯罪だってことです。
刑法の私文書偽造罪の構成要件を詳しく解説
私文書偽造罪を定めた刑法159条1項は次の通りです。
行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。
この条文はいくつかの部分(「構成要件」といいます)に分かれますので、それぞれについて簡単に解説しますね。
行使の目的で
「行使」とは、「(偽造)文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくこと」です(最高裁昭和44年6月18日判決。詳細はこちら)。簡単に言うと、「偽物の文書を『本物です!』と言って他人に渡したりするとダメよ」ってこと。
(偽造した)他人の印章若しくは署名を使用して
「他人」とは、公務員以外の一般人のことです。
また、「印章」とは、「この人は本人ですよ」ってのを証明するために使用される文字や符号です。印鑑とかハンコとかがこれに当たりますね。一方、「署名」は、自分の名前を自分で書くことです。
この印章や署名は本物じゃなくてもよくて、偽造されたものでもOK。だから、替え玉受験を行った偽受験生が入試の答案に受験生本人の名前を書くのも「署名を使用した」に該当するんですね。
権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を
権利、義務に関する文書は、領収書や債権証書などです。事実証明に関する文書は、履歴書や鑑定書などです。そして、入試の答案がこうした文書に該当することは、替え玉受験に関する最高裁判例の通りです。
ちなみに、「図画」は、法律の世界では「とが」と読みます。図画とは、絵画や写真などに加えて、ビデオや映画フィルムといった文書以外のものを広く含みます。
偽造した
「偽造」かどうかは、「本件文書の名義人と作成者との人格の同一性に齟齬を生じている」ことから判断されます(最高裁昭和59年2月17日判決。詳細はこちら)。最高裁の表現が難しいですが、要は「文書を作るべき本人と実際に作った人間が別人じゃん!」って意味です。
宿題代行業者の利用はリスクと隣り合わせ?
替え玉受験に関する最高裁判例と私文書偽造罪の構成要件を見る限り、相談者のケースはかなり危険だと思います。調査書に入賞歴が記載され、それが高校受験の合否に影響する可能性があるからです。
宿題代行業者から送られてきたテキストデータを相談者自身が原稿用紙に写したのなら私文書偽造罪に該当しません。
一方、相談者は、原稿用紙に代筆するところまで宿題代行業者に依頼しています。なので、もしこのことがバレて訴えられたら、私文書偽造罪の(共謀)共同正犯になるんじゃないでしょうか?(共謀共同正犯については、「不法投棄されたゴミを撤去せよ!産業廃棄物の処理は誰が行うべきか?」を参照してください)
もっとも、相談者は未成年なので刑務所行きにはなりませんが、高校受験には少なからぬ悪影響を及ぼすのでは?
というわけで、やっちゃったことは仕方ないので、相談者は宿題代行業者を利用したという秘密を墓場まで持っていく覚悟を決めましょう。後日先生などから追及されても、「自分で書いた」を貫き通す必要があります。
ネット上の例文をパクるとバレる可能性が高いですが、宿題代行業者が完全オリジナルの人権作文を書いたのなら、相談者が自白しない限り偽造はバレないでしょう(ただし、宿題代行業者が全く同じ文章を何人もの依頼者に売ったのなら、バレる可能性が高まります)。
いずれにしても、宿題代行業者の利用はリスクと隣り合わせです。小中高生の皆さんは、そんなリスクに冒すんじゃなく、下手でも何でもいいので、自力で宿題を終わらせましょうね。お盆までに宿題を全て片付けることをオススメします!
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