ペットとして購入した動物が病気にかかっていて、それが人間にも感染した場合、ペットショップに文句を言うのが筋でしょう。一方、ペットショップに場所を貸していたスーパーの責任はどうなるのでしょうか?
相談者のケースと似たような事件で最高裁が下した判決を見てみましょう。
客を誤認させる外観を作出したら連帯責任を負いなさい
今回紹介するのは、ペットショップで購入したインコにまつわる判例です。
Aは、Bスーパーマーケット内のテナントであるペットショップで手乗りインコ2羽を購入しました。しかし、2羽はオウム病クラミジアという感染症にかかっていて、購入後間もなく死亡。これだけにとどまらず、Aの家族が次々とオウム病性肺炎にかかり、一人は死亡してしまいました。
Aは、ペットショップと連帯責任を負うとして、Bスーパーマーケットに損害賠償請求しました。その上告審で、最高裁は次の判決を下しました。(全文はこちら)
今日の判例本件においては、一般の買物客が被上告補助参加人の経営するペットショップの営業主体はBであると誤認するのもやむを得ないような外観が存在したというべきである。そして、Bは、前記一の2のように本件店舗の外部にBの商標を表示し、被上告補助参加人との間において、同3の内容の出店及び店舗使用に関する契約を締結することなどにより、右外観を作出し、又はその作出に関与していたのであるから、Bは、商法二三条の類推適用により、買物客と被上告補助参加人との取引に関して名板貸人と同様の責任を負わなければならない。
「外観」は「見た目」のこと。かみ砕いて言えば、「スーパーが営業しているように見えるテナントの起こしたトラブルに関しては、スーパーも責任を負えよ」ってことです。
スーパーやデパート、ショッピングモールなどは、テナント料を徴収して、他の店に場所を貸しています。その際、自分たちで営業している部分とテナントが営業している部分とをはっきり区別しておかないと、この判例のように「客を誤認させる外観を作出した」といわれて連帯責任を負わされるリスクが大きくなります。
名板貸の条文を類推適用するってどういうこと?
判例にある商法23条は旧商法の条文で、現在の商法では次の14条に当たります。
自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
いわゆる「名板貸(ないたがし)」について定めた条文です。「商号」とは、商人や会社が商売をするうえで使う名前のことですよ。
たとえば、「シャベレール」という商号の英会話学校Xがあるとしましょう。この英会話学校が他の英語教室Yに「『シャベレール』という名前を使っていいよ」と言った場合、Xが「シャベレール」の名を語って行った詐欺について、Yも責任を追及されちゃいます。もちろん、Xが勝手に「シャベレール」を名乗っていたのなら話は別ですが。
名板貸の条文を、最高裁は類推適用しています。類推適用とは、直接条文に当てはまらない事件に対して、「条文の想定してる場合と似てるよね?」と言って、条文を当てはめてしまうやり方です。刑事裁判では類推適用禁止ですが、民事裁判ではよくあります。
そもそもBスーパーマーケットは、ペットショップに「『B』という名前を使っていいよ」とは言っていません。が、最高裁は、「ペットショップはBの店舗内で営業しているし、Bの一部なのかテナントなのかをお客さんが区別するのは難しい」という理由で、名板貸の条文を類推適用したってわけ!
もっとも、この事件では人が死んじゃってるので、最高裁は被害者を救済しようとして、こういう解釈をしたのかもしれません。
人獣共通感染症のリスクを考えてペットを購入しよう
相談者の場合、ペットショップがスーパーから撤退しています。なので、スーパーの責任を追及するかどうかは別として、まずはスーパーにクレームを入れるところからスタートです。そこで誠意ある対応をしてもらえなければ、今回紹介した判例をちらつかせながら交渉するといいでしょう。とはいえ、スーパーとテナントが明確に区別されていたら、またちょっと面倒なことになりそうです。
さて、トキソプラズマ症やオウム病クラミジアといった、動物から人間に感染する病気を「人獣共通感染症」といいます。人獣共通感染症として有名なのは、感染力が強く致死率も高いエボラ出血熱です。これはサルやコウモリから感染するといわれます。
メジャーでない動物をペットにするとヤバいことになるかもしれませんので、ペット購入の際は十分注意してくださいね。
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